私は新卒後貿易事務職として中堅商社に勤めていました。

新人社員として二年間多忙ながらも充実した日々を過ごし、三年目になる春に初めて新入社員のOJTを任されることになりました。

これで私も一人前になれたのだ、という喜びに加え、忙しい上に難しい仕事をする部署だからこそ、厳しく指導して一日も早く立派な社員になってもらおう、そのためにも一生懸命教えようと、希望に燃えていました。

私が担当する新入社員は、女子大を卒業したばかりのおとなしい新人でした。

メモをしっかり取り、やる気はかなりあるようでしたが、いかんせん仕事の理解が遅く、私は徐々に彼女に苛立ちを覚えました。

例えば書類整理の際、その書類の全ての場所を見る必要はありません。

例えば、相手の会社名だけを見て会社ごとに分ける、通し番号だけを見てそれを順番通りにするなど、慣れてしまえば簡単なものでした。

しかし彼女は、書類を手に取るとそれをじっくりと見てしまい、見るべき場所以外の場所までも理解しようとしているのです。

また、とにかく最初は書類整理を早くしてもらうことが目標なのに、いちいち「これはどのような書類なのですか」「この書類とこの書類がこのようにつながっているのですか」と、いちいち理屈っぽく聞いてくるため、一向に仕事が進みませんでした。

私はだんだんイライラし始め、「今はそういうこと考えなくてもいいから」「とにかく今は、体で覚えて」と、だんだんつっけんどんに対応をしてしまったように思います。

二週間くらい経つ頃、確かに彼女は私が言うように仕事を「体で覚えて」きたのですが、だんだん私に対して恐怖を覚えているように見受けられました。

もちろん挨拶はしてくれるのですが、目を見ない、質問があるとわざわざ私が忙しい時間に別の先輩に聞く、私が彼女の後ろに立って仕事を見ていると手が震えている、といったことが続きました。

もしかしたら怖いと思われているのかもしれない、このままではハラスメントと思われるかもしれない、と思い、上司に相談しました。

「パワハラ」という言葉がニュースで頻繁に取り上げられるようになった時期でもあり、とにかく私も怖くなってしまったのです。

上司も彼女が私を怖がっていること、萎縮しているせいでうまく仕事を呑み込めないでいるかもしれないことを知っていました。

そこで上司は、私とはまったく違うタイプの先輩をOJTの副担当として彼女につけることを提案しました。

そして、二人で異なるアプローチをしながら、彼女の理解を育てようと提案したのです。
副担当になったのは私より半年早く中途入社した先輩で、前まで教育業界にいた経験もある、非常に理路整然とした女性でした。

私はやり方を変えなくてもよい、と言われていたので、私はとにかく「ミスなく、かつ迅速に処理を行う方法」を教え続けました。

一方で副担当者は、彼女に仕事の全体像を教えました。

この書類はこのように動く、その過程で自分たちがこのような処理をすることが必要である、この作業はこのような意味がある、ということを、時には図を描きながら丁寧に教えていました。

結果的には、これが成功でした。

彼女は「自分が今、何の仕事をしているのか」ということをしっかり理解できるようになりました。

そのおかげで、書類整理をしながら「これは何だろう?」ということを考え込むことがなくなりました。

一旦理解してしまうと早いもので、書類を受領するや否や「先輩、これはこの処理をするんですよね!」とやるべきことを理解し、作業に取り掛かれました。

その上で、私が苦労して教えようとしていた「迅速に処理をするコツ」「要領よく作業を進めるコツ」も体に染み込ませられたようでした。

私自身は「自分が何の仕事をしているのか」という理解をしたのは入社後半年ほど経ってからだったので、そのようなことを最初に理解しないとなかなか仕事がしにくい、彼女のようなタイプの社員もいることに気づきました。

もちろん、私と彼女、どちらが悪いということもありません。

だからこそ、新人を育てる際は「この人はどのように教えることが適切なのか」を考える必要があると思いました。

まして、自分のやり方を押し付けて、新人のフラストレーションをためさせてしまっては、いい仕事ができるはずもありません。

今回は上司が早急に対応してくれたからよかったものの、このまま私と彼女がすれ違い続けていたら、OJTが立ち行かなくなっていたかもしれないと思いました。

その上、新入社員はただでさえ新しい環境に飛び込んだばかりで、不安でいっぱいです。

私とは三歳しか離れていないとはいえ、「先輩」というだけで十分恐怖の対象ともなっていたのです。

そんな新人を萎縮させてしまっては、分からないことがあっても質問すらできないという状況になりかねません。

私の場合、「早く一人前にしなくては」という気持ちが空回りしていた、ということもあると思います。

自分も新入社員の頃は右も左も分からなかったということを忘れず、一つ一つ着実に教えていくことが大切だと強く実感しました。

誰にどのように教えるのか、その正解はなかなか見えないことが多いです。

新入社員教育とは、やり方が見えない難しさもあるのだと知りました。

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